心理学教本 2015〜16年 年末年始セミナー心理学講義 『愛着理論 〜人の成長に必要なものは?〜』

心理学教本 2015〜16年 年末年始セミナー心理学講義
『愛着理論 〜人の成長に必要なものは?〜』

●内容のご紹介

1.愛着とは

(1)愛着とは何か

愛着とは、仏教では愛着は煩悩の一つで、根本的な3つの煩悩のうち貪り(貪:とん)といわれるもので、苦しみを生じさせるものとされる。

心理学的には、「愛着」という概念は、養育者との情緒的な特別な結びつきのことを言い、乳幼児期の赤ちゃんが心身の健全な成長のために必要な安心・安全を提供するものとする。
この講義では、心理学的概念としての「愛着」についての理論を講義する。


(2)愛着は生物学的な現象

愛着は、人間だけに見られるものではなく、猿などの霊長類や犬、馬などにも見られるもので、成長のために組み込まれているものと言える。鳥における刷り込みなどもそうである。

すり‐こみ【刷(り)込み】
生まれたばかりの動物、特に鳥類で多くみられる一種の学習。目の前を動く
物体を親として覚え込み、以後それに追従して、一生愛着を示す現象。動
物学者ローレンツが初めて発表した。刻印づけ。インプリンティング。
(デジタル大辞泉より)

観察実験で、出産直後1時間以内の赤ちゃんでも、単純な絵よりも、人間の顔の絵の方を目で追う傾向があることがわかっている。また、他の音よりも、人間の声に耳を傾けるということも実験結果でわかっている。

人間は、赤ちゃんから子ども時代・思春期をへて大人になっていくが、赤ちゃんは自分では何一つできない。すべてを面倒見てくれる人がいなければ生きていけない存在だ。愛着はそうした面倒を見る人と赤ちゃんとの間で形成されるものである。

愛着は、生物として成長し生存していくためには必要で、個体の生存と種の保存のためには必要であると「愛着理論」ではいう。


(3)愛着は母子の相互関係

赤ちゃんは自分の欲求に応えてくれる母親の存在があればこそ成長していくことができる。適切な世話は母親が赤ちゃんを可愛いと思い愛着していくことでうまくできるようになる。
乳児が相手の顔を見つめ微笑み、声を出す「天使の微笑み」とも言われるものがあり、どんな人でも赤ちゃんのその微笑みを見ると可愛いと思い愛着を誘う。そうして母親の愛着が芽生え、愛情深い親身な世話の原動力になる。愛情深い親身な世話によって、赤ちゃんも母親に愛着するようになる。このように愛着は母子の相互関係で成立する。

自分の欲求に対して応えてくれる対象に愛着が作られると、子どもは愛着の対象とそれ以外の存在をはっきり区別し、愛着対象だけを追い求めるようになっていく。そして、世話をされるのが愛着対象でなければ子どもは十分に満足しなくなる。

この乳幼児期の愛着の仕方がその後の対人関係をはじめ、ストレスや困難にぶつかったときの処し方に影響するということがわかってきている。


2.ボウルビィの愛着理論

イギリスの児童精神分析家のボウルビィが愛着という概念によって「愛着理論」を作った。愛着理論のできる先行の研究として、ホスピタリズムの問題とアカゲザルの実験があるので紹介する。


(1)ホスピタリズム

ホスピタリズムは施設病とも言われ、施設で育つ子どもに心身の発達の遅れが著しく、病気に罹りやすく、治りにくく、死亡率も高いというもの。1920年ころに最初の報告がされた。
栄養は十分与えられていても発達の遅れの問題が生じて、子どもたちは、人と接触しようとせず、表情も乏しく、自分の殻に閉じこもり、じっと座り込んでぼんやり宙を見つめていたり、意味の無い同じ行動を繰り返したり、自傷行為を行ったりという状態だった。

どうしてこのような問題が起こるか研究した結果、施設では、集団で保育され、スキンシップがなく、親身になって子どもの世話をするのではないという養育環境がその原因であるということがわかった。そうしたことから、スキンシップの重要性が理解され徐々に改善されていたが、解決されたわけではない。また、里親を積極的に募ることで改善を図ろうとした。


(2)アカゲザルの実験

アカゲザルの実験とは、代理母として、哺乳瓶をつけた針金製の母ザルと、哺乳瓶をつけてない柔らかい布製の母ザルを作り、子ザルの行動を研究したものである。

子ザルは、空腹を満たせる針金製の母ザルよりも空腹は満たせないが、柔らかい肌触りの母ザルと過ごす時間が圧倒的に多く、不安や恐怖を感じる場面では、柔らかい感触の母ザルにしがみつくことが確認された。このことで、心地よい身体接触(スキンシップ)が重要な意味を持つことがわかる。空腹を満たせることだけでは愛着行動は引き起こせないということになる。


(3)母親との特別な結びつき「愛着」

ボウルビィはこれらの研究をさらに一歩進め、「愛着」という概念で説明した。

ボウルビィは、戦災孤児など親がいない施設で養育されていた子どもたちの調査を第二次世界大戦後にWHO(世界保健機関)に依頼されて行った。
ボウルビィは、そうした子どもたちの問題を母性愛の剥奪という観点から説明した。母親と離されることでその愛情を受けることができず、それによって、母親との特別な結びつきが作られないことが、孤児たちの問題の原因であるとした。この母親との特別な結びつきの性質を「愛着」と呼んだ。


(4)愛着は特定の人との関係

愛着は、一人の人との緊密な関係によって作られることがわかっている。それは通常母親であるが、何らかの理由で母親に育てられなくても、愛情深く、親身に育ててくれる人がいればその人と愛着関係は成立する。そして、その特定の対象者だけに愛着行動をとり、それ以外の対象に対しては愛着行動は抑えられる。人見知りするのは母子の愛着関係が成立していることを表している。

※愛着行動:愛着を抱いた対象への接近や接触、後追い行動、微笑、発声など

ホスピタリズムの問題が報告され、その改善が行われてきていたが、愛着理論では「愛着」という概念で問題の原因を一歩深く説明することができた。施設では、複数の人が入れ替わりで接することになり、特定の人と十分な愛着関係を結ぶことがなかなかできない。複数の人にスキンシップもある養育をされても、養育者が入れ替わる環境では特定の人との安定した関係・心の絆(=愛着)を築くことは難しい。
このように健全な安定した愛着を形成できないと、歪んだ不安定な愛着が形成され、日常生活に大きく障害となるものを愛着障害という。


(5)イスラエルのキブツの例(※キブツ:イスラエルの集団農業共同体)

一人の人との関わりでなければ愛着関係は成立しないということの例として、イスラエルのキブツと呼ばれる集団での養育の仕方がある。

キブツでは、合理性、効率性と子どもの自立のためにもいいという予測のもとで、子どもの世話は集団で行い、夜も母親と過ごすことなく子育てをした結果、不安定な愛着行動をとるようになったということが研究によってわかった。その後、キブツでの養育方法は変更された。
集団での養育が愛着形成に障害を生じさせることと、愛着関係が子どもの健全な成長に必要だということが、この例からもわかる。

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